相続法改正の概要と施行スケジュールについて、
こちらのページでは、改正された各項目ごとに、その概要を見ていきます。
施行スケジュールについてはこちらです
>>「相続法改正の概要と施行スケジュール(1)」
相続法改正の概要
(1) 2019年1月13日施行
自筆証書遺言においては、これまでは、全ての内容を自筆で書く必要がありましたが、本改正の施行日以降は、パソコン等で打ち出した「財産目録」を添付することができるようになりました。
財産目録以外は自筆で書く必要があることと、本文と目録に契印が必要など、一定の要件がありますので注意が必要です。
(2) 2019年7月1日施行
この改正は重要です。
なぜなら、これまでの判例と異なる結論となるためです。
従来は、「遺言による相続分の指定」「相続させる旨の遺言」によって、法定相続分以上の相続財産を取得した者は、対抗要件なくして第三者に対抗することができるとされていました。
これが、新法では「法定相続分を超える」権利の承継については、対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないこととされました。
例えば、1つの不動産が相続財産であったとして、子供3名(A・B ・C)が相続人だったとします。
法定相続分は、それぞれ3分の1ずつになります。
被相続人が、「Aにこの不動産を相続させる」旨の遺言を残していた場合、これまでは、相続登記をしなくてもこの不動産の所有権を第三者に対抗することができました。
しかし、新民法施行後は、このような遺言があったとしても、その旨の相続登記をしておかなければ、この不動産の3分の2(Aの法定相続分3分の1を超える分)については、第三者に所有権を主張することができなくなりました。
確実に自身の権利を守るためには、迅速な相続登記が求められます。
判例において、また実務上も取り扱われてきたものが、条文で明文化されました。
相続財産に「債務」があった場合、相続人間でその債務を承継するものを定めたとしても、債権者にはそのことを主張できず、債権者は法定相続分に従った相続債務の履行を求めることができます。
ただし、債権者が相続人間の決定を認めた場合は、この限りではありません。
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産の遺贈又は贈与がされたときは、持戻しの免除の意思表示があったものと推定することとなりました。
これまでは
⇒生前に贈与したものであっても、婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた場合は、その贈与を受けた財産も相続財産とみなして遺産分割することになっていました。
例えば、夫の生前、妻に、家と敷地を贈与していても(家・敷地の名義を妻にしていても)、遺産分割の際には、その分も相続財産として加える必要がありました。
つまり、一度もらったものを、一回返したうえで(理論上ですが)、遺産分割する必要があったわけです。
改正法施行日以降
⇒20年以上の夫婦間の、居住用不動産の遺贈または贈与については、遺産分割時、その分を相続財産に加えなくてもよくなりました。
配偶者の取得分がより多くなるようにした方策です。
※上記は、変更点がわかるようにざっくりとご説明しています。実際の遺産分割においての取り扱いや、例外などについては触れておりません。
判例において、また実務上も取り扱われてきたものが、条文で明文化されました。
一例をあげると、例えば相続開始時には存在した預金を、相続人の一人が遺産分割時までに勝手に引き出した場合、その引き出した預金を遺産分割する対象の財産に含める、という内容です。
当たり前と言えば当たり前です。
これまで実務上取り扱われてきたものが、条文で明文化されました。
一部分割とは、例えば、遺産がA財産とB財産である場合に、A財産だけ先に分割協議をしてその協議を確定させてしまうことです。
相続された預貯金債権(要は預貯金のこと)について、生活費や葬儀費用の支払い、相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう、遺産分割協議が整う前に、仮払いとして金融機関から払い戻しができるようなりました。
払い戻すことができる金額は、「預貯金債権額×払い戻す相続人の法定相続分×1/3」で、金融機関ごとの上限は150万円です。
払い戻した預貯金は、払い戻した相続人が取得したものとみなされます。
また、相続開始が本改正の施行日(2019年7月1日)より前であっても、施行日以降は、払戻しが可能となります。
この点、案外見落としがちなところかもしれません。
債権法の改正に伴い、遺贈義務者は、遺贈の目的である物又は権利を「相続が開始したとき」の状態で引き渡し、又は移転することとされました。
遺言執行者に関する条文が改正されました。
主な改正内容は、
・遺言執行者に、遺言の内容を相続人に通知する義務が課されました(1007条2項)。
・遺言執行が相続人によって妨害された場合の第三者保護規定と債権者保護規定が新設されました(1013条2項、3項)
・遺言執行者の権限の明確化(1014条)
・遺言執行者に復任権が付与されました(1016条)
「遺留分」に関する内容が改正されました。
主な改正内容は、
・物権的効力を有する「遺留分減殺請求権(いりゅうぶんげんさいせいきゅうけん)」が、金銭債権としての「遺留分侵害額請求権」に変わりました(1046条)。
・遺留分を算定するための、相続財産に加算する生前贈与については、相続開始前10年間にしたものに限るとされました(1044条3項)。
これまでは、相続人以外の者(例えば長男の妻)が被相続人の介護などでいくら尽くしても、遺贈の受遺者(遺言で長男の妻に○○を遺贈する)にならない限りは相続財産を取得することはできませんでした。
この制度の新設により、
「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族」
は、相続人に対し、その寄与に応じた金銭を請求できることとなりました。
(3)2020年4月1日施行
夫婦のうち、一方が亡くなった場合に、残された配偶者の居住権を保護するための方策として、
「配偶者短期居住権」と「配偶者居住権」が新設されました。
それぞれの制度の特徴は、
ア)配偶者短期居住権
・残された配偶者が、被相続人の建物に無償で住んでいた場合に、一定の期間、その建物を無償で使用する権利。
・期間は、最低6カ月は保障されている。
・他の相続人の同意や、被相続人が遺言で残していなくても、一定の期間居住することが可能。
イ)配偶者居住権
・残された配偶者が、被相続人の建物に住んでいた場合に、「遺産分割(相続人間の協議)」又は「遺贈(遺言)」等で、この権利を取得するものとされた時に発生する権利。
・期間は、終身。
(4)2020年7月10日施行
自筆証書遺言には、これまで次のようなデメリットがあるとされてきました。
ア)遺言書の紛失可能性
イ)相続人や関係者による隠匿、変造可能性
ウ)相続開始後の「検認手続き」の煩雑さ
本制度の創設により、これらの問題点が改善されることとなりそうです。
この制度を利用することにより、遺言書が法務局で保管されますので、ア)、イ)については心配する必要がなくなります。
また、この制度を利用した場合、検認が不要となりますので、ウ)についても改善されます。
本制度については、こちらのコラムでもご説明しています。
>>「遺言書保管法の成立」
※ 上記の内容につきましては、相続法改正の概要をざっくりと把握していただくために、当サイトの作成者がまとめたものです。
それぞれの項目につきまして、細部や例外等については触れておりませんので、その点ご留意ください。