ここでは、法人化するとどのようなメリットとデメリットがあるのか、そしてどういう状況になったら検討を始めた方が良いのか、を述べてみたいと思います。
個人事業で起業して事業が安定してくると、株式会社等への法人化をご検討される方は多いと思います。
一方、全く法人化を意識されないで個人事業のまま継続されている方も少なからずいらっしゃいます。
前者に該当する方には検討材料の一助に、後者に該当する方には気づきのきっかけになれば幸いです。
ここでは、出来る限り内容を絞って、簡潔に述べてみたいと思います。
1 法人化 とは
「法人化」する、とはどういうことでしょうか。
「法人成り」する、と言ったりもしますが、要するに、これまで個人でやっていた事業を、株式会社や合同会社のような組織を設立し、その組織によって事業を運営することに切り替えることです。
具体的には、会社等の法人を設立する手続きを行います。
そうして法人を設立しますと、代表者個人ではなく、その法人自体が権利や義務の主体となります。
たとえば契約をする場合には、これまで個人の名前で契約していたものが、会社名での契約に変わりますので、契約の主体は社長個人ではなく、会社となります。その契約に伴う権利は会社が得、義務も会社が負うこととなります。
2 法人の種類
「株式会社」が最も知られていますが、他にも合同会社、合資会社、合名会社、社団法人、財団法人、NPO等があります。
このうち、現在個人事業をされている方が法人化する際に検討するのは、株式会社・合同会社ぐらいです。
3 法人化のメリットデメリット
❏ 法人化のメリットは?
①税金が安くなる可能性
・個人の所得税は、45%を上限として収入が上がれば上がるほど税率が上がる仕組みに対して、法人税は、25%程度が上限。
・法人化すると、社長に支払う給与が給与所得控除の対象となるので、個人事業では無かった所得控除を受けることが出来る。たとえば、社長の報酬が500万円であれば150万円の控除が可能。
・個人事業では経費にできなかったものを経費にできる。退職金や福利厚生費など。
②対外的な信用の向上
そもそも個人事業では取引をしてもらえない会社がありますので、やむを得ず法人化を検討される方も多いと思います。
また、屋号(個人事業)よりは、株式会社○○の方が一般的に信用度が高いのは間違いないですし、金融機関からの融資についても同様です。
③事業が失敗した場合のリスク低減
例えば株式会社であれば、社長は、会社が会社の名前で行った行為について、社長が出資した金銭(資本金)を超える責任を負いません(役員として責任を負う場合はあります)。 このことを有限責任といいますが、個人事業の場合は、社長はその事業について無限に責任を負います。
例えば、社長が100万円の出資をして株式会社を設立した場合、その会社が1億の負債を抱えても、100万(既に出資した)が帰ってこないだけで、それ以上を社長個人が返済する義務がない、ということです。
ただ実際は、会社が借金をする場合、中小企業ですと社長個人を連帯保証人に設定する場合が多いですので、その連帯保証した部分については個人の責任は免れません。
それでも、事業をしていれば、借金以外の負債も少なからず生じますので(売掛金、事故が起きて損害賠償等々)、社長個人と会社が分離しているメリットは存在します。
❏ 法人化のデメリットは?
① 設立するのに費用や手間がかかる。設立後も、役員変更登記などの手間・費用がかかる。
② 住民税の均等割り負担(例えその年が赤字でも最低7万円を支払う必要あり)
③ 交際費の経費計上に上限あり(年800万円)
❏ 判断が微妙なところ
① 社会保険への加入
⇒法人化すれば、社会保険(厚生年金、健康保険)への加入が必要です。
仮に社長一人だけの会社を想定すると、個人事業時よりも保険料負担は増加します。
従業員がいれば、その分の負担も増加します。
一方、厚生年金に加入できるということは、将来年金の受給額が増え、また健康保険についても、傷病手当金などの補償が厚くなる、というメリットがあります。
「現在の負担は増えるが、将来の備えになる」
ということで、私個人としては、メリットと捉えています。
しかし、そもそも法人化の目的として、「税金を減らしてキャッシュを残したい」、ということをメインに考えていらっしゃる場合は、当面の支出は逆に増えることになりますので考慮が必要です。
4 法人化を検討するタイミング
次のような状況が生じたときは、法人化の検討を始められることをお勧めします。
上記のように必ずメリットとデメリットが存在しますので、あくまで検討です。
① 1年間の利益(売上ー経費)が500万円を超え始めた。
3①の税金面のメリットが出始める利益だからです。ただし、500万円はあくまで目安であり、役員報酬の金額や家族への給与支払いアリナシ等によって個別に判断する必要があります。
② 年間売上高が1千万円を超えた。
売上高が1千万円を超えると、超えた年の2年後から消費税の課税対象になります。
しかし、例外はありますが「個人事業を開業後」と「法人設立後」の2年間は課税がされません。
この制度を利用して、消費税課税対象になるタイミングで法人化すれば、そこから2年間は消費税の支払を回避できるのです。
③ 事業をもうひと伸びさせたい。
法人化すると、一般的に信用度が上がります。 →売上向上期待
銀行の融資も、一般的に受けやすくなります。 →資金繰り改善、事業拡大期待
求人をかけた時に、個人事業よりも有利になる傾向があります。 →必要な人材の確保期待
ご説明は以上です。
細かいところは置いておいても、特に4の法人化のタイミングだけでも頭に入れておけば、機会ロスを防げると思います。
なお、税金についての詳しい検討をされる際は、税理士さんにお問い合わせください。