お子さんがいらっしゃらないご夫婦において、例えば旦那様が亡くなった場合の相続はどのようになるでしょう。
奥様が全ての遺産を取得することが出来るとは限りませんので注意が必要です。
1 お子さんがいない場合の相続権
お子さんがいない場合のご夫婦において、一方が亡くなった場合、その相続権は配偶者だけにあるわけではありません。
コラム「法定相続分とは」の中の「1 配偶者」の項でも触れていますが、次のように判定していきます。
■お子さんがいないご夫婦のうち、旦那様が亡くなった場合
① 亡くなった旦那様の直系尊属(親、祖父母等)が存命
⇒ 妻2/3、直系尊属1/3
② 直系尊属が誰もおらず、亡くなった旦那様の兄弟姉妹(またはその子)が存命
⇒ 妻3/4、兄弟姉妹(またはその子)1/4
③ 直系尊属、兄弟姉妹(またはその子)いずれもいない
⇒ 妻 全部
つまり、亡くなった旦那様の親または祖父母等、兄弟姉妹またはおい・めいが誰もいない場合に、妻が全ての遺産を取得できますが、誰かが存命であれば、その方との遺産分割協議が必要となります。
2 問題点
上記1のように、相続権を有する方が複数いると、不動産の相続登記や、預貯金の解約手続きなどにおいて、相続人全員の関与が求められます。
具体的には、相続人全員による遺産分割協議書への署名押印や、金融機関所定の書類への署名押印、印鑑証明書の提出などです。
それらの書類作成の前提として、遺産分割の話合いやなんらかのやりとりが必要となりますので、最近連絡をとっていない、または一度も会ったこともない、という関係者がいると、かなりの精神的負担になることが想像できます。
また、実際こちらの要望通りに納得いただけるかどうかもわかりませんので、手続きが暗礁に乗りあげる可能性もあります。
さらに、相当程度高齢になったご夫婦の場合(80歳超)、多くはご両親が亡くなられているので、その場合配偶者と兄弟での相続となりますが、兄弟も亡くなられていることも珍しくありません。そうなるとその兄弟の相続権はその子(亡くなった方のおい・めい)に引き継がれますので、関与者が多数になる場合が多くなりますし、配偶者からすれば面識が全くないということも十分考えられます。
そうなると、
①相続人全員の居所がつかめない
②遺産分割協議に関わりたくない(または納得しない)相続人がいる
③相続人が認知症などで意思表示できない
という確率が高くなります。
①~③いずれの場合も、手続きを進める難易度が高くなります。
3 対策
お子さんがいない場合のご夫婦において、残された配偶者に全ての財産を残したい場合、
遺言を作成することをお勧めします。
特に、相続人が「配偶者」と「兄弟姉妹(またはその子)」になる場合、兄弟姉妹(またはその子)には「遺留分」がありませんので、全ての財産を配偶者に残すことが出来ます。
また、法的に有効な遺言があれば、様々な相続手続きにおいて、他の相続人の関与なしに手続きできる場合がほとんどですので、残された配偶者の負担軽減にも大きな効果があります。
なお、ご夫婦どちらにも一定の財産がある場合は、ご夫婦で遺言を作成すべきだと思います。
どちらが先に亡くなられるかはわかりませんので。