身内の方が亡くなられ、どのタイミングで遺産分割の話をするのかはそれぞれの事情によりますが、実際に話を進めるときに、どういう手順で進めたら良いのかで悩まれる方は多いと思います。
不動産があれば相続登記、預貯金があれば解約や名義変更の手続きをするにあたり、基本的に遺産分割の話がまとまらないとそれらの手続きをすすめることはできません。
ここでは、大まかな手順と注意点を記しますので、ご参考にしていただければと思います。
なお、相続財産に不動産がある場合は、最終的に名義の変更手続きを司法書士に依頼される方が多いですので、先にご相談いただくと後々スムーズに手続きが進むと思います。
1 まず遺言を探す
亡くなられた方から、遺言を残すことを告げられていれば問題ありませんが、身内の方にも告げずこっそり残される方もいらっしゃいます。
一番最初に、遺言書が残されていないか確認してください。
最初に遺言書を探していただく理由は、遺産分割協議を済ませた後に遺言書が見つかった場合、大変面倒なことになるからです。
相続人間の遺産分割協議よりも、遺言書の内容(法的に有効なものであることが前提ですが)が優先されますので、たとえ遺産分割協議を終えて手続きが終了していた場合でも、後に遺言書が見つかった場合は手続きのやり直しをする必要が出てくる場合があります。
自筆証書遺言であれば、机や金庫、貸金庫などをあたることになりますが、公正証書遺言であれば公証役場に検索システムがありますので、問い合わせて確認することが可能です。
2 相続財産の洗い出し
亡くなられた方がお持ちだった財産を洗い出します。
後々のことを考えれば漏れのないようにしっかり確認しておきたいところです。
通帳や権利証はもちろんですが、最近は通帳のないネット銀行を使われている方も多いですので、パソコンの中身を見るなどの作業も必要かもしれません。
ペーパーレス化が進んでおり、銀行や証券会社からの郵便物も極端に少なくなっていますので、ご注意ください。
不動産については、権利証(登記済証、登記識別情報)があれば良いですが、残っていない場合もありますので、少なくとも亡くなられた方が住んでいた市町村の「名寄帳」は取得しておいた方が良いと思います。
なお、一時期のブームで、北海道、那須などの原野をお持ちの方もいらっしゃいますが、その場合は亡くなられた方が何らかの資料を残していないと、相続人が見つけるのは非常に困難です。
そして、もう一つ重要なのが、亡くなられた方に負債がなかったかどうか、です。
借金等の負債があると、どういう問題点があるかは、こちらで説明していますのでご覧ください。
3 遺産分割協議と協議書の作成
遺言書がなければ、法定相続人全員で遺産をどう分けるかの協議をします。
遺産は、上記の2で洗い出したものです。
協議のうえ決定した内容を遺産分割協議書として書面化し、協議者全員の署名押印をします。
この時、協議参加者が本人の意思で押印した証として、実印を用いた上に印鑑証明書を添付しておいた方が良いと思います。
実印と印鑑証明書は、後々の様々な手続きで求められる場合が多いです。
注意点として、未成年のお子さんが法定相続人の一人で、その親も法定相続人の場合は、親が「自分」と「子供の代理人」としての二つの地位を持つことになり利益相反となりますので、お子さんのために特別代理人を選任する必要があります。
裁判所が選任した特別代理人が、お子さんに代わって遺産分割協議に署名押印することになります。
また、法定相続人の一人が認知症などでその方に判断能力が無いような場合は、その方のために成年後見人を選任する必要があります。
成年後見人が被後見人に代わって遺産分割協議に参加することになります。
4 遺産分割協議書を作る理由
おおまかにご説明しましたが、最後に遺産分割協議書を作成するポイントをお伝えします。
それは、遺産分割協議書は何のために作るか、という基本的な部分です。
何のために作るのかを理解しておけば、作成するにあたって何を押さえておかなければいけないのかが見えてくるからです。
この書類には、端的に言えば、二つの目的(意味)があります。
一つが、後で「そんなことは言ってない」ということにならないように、書面に残して自署押印する、という「証拠」としての書類。
もう一つが、不動産の名義を換えるための相続登記や金融機関などの手続きで使用するための、「手続きに必要な添付書面」としての書類。
前述した「実印での押印」と「印鑑証明書」の添付は、このどちらの意味でも重要です。
実際は、後者のためだけに作られることもあり、協議自体はないがしろにされている場合があります。
財産を取得しなかった相続人から、「説明もなしに押印させられた」「どんな財産があるか一切聞いてなかった」というような不満をお聞きする機会は多々あります。
逆に、手続きで引っ掛かってしまうような内容でもいけません。
誰がどの遺産を取得するのか、を明確に記載する必要があります。
上記1~3の手順を踏んで、且つ、後の手続きで求められる内容が具備されている遺産分割協議書を作成することが大切です。